
愛知県名古屋市の魚屋「寿商店」の仕入れや販売を担当し、YouTubeで魚の魅力を発信している森 朝奈さん。自宅では魚や調理に合わせて20本ものしょうゆを使い分け、マグロに合うしょうゆの開発を手掛けるなど、発酵についても研究熱心です。
「魚と発酵食は、切っても切れない関係」と語る森さんに、魚と発酵調味料の相性や、おいしさの理由を教えてもらいました。さらに、愛知のプライドフィッシュ※「うなぎ」をプロの味に近づける、蒲焼きタレのレシピも特別公開! 家庭ですぐに真似できるポイントも満載です。
※「プライドフィッシュ」とは、全国漁業協同組合連合会(全漁連)が推進するプロジェクトで、各都道府県の漁師が「本当においしい」と自信を持って選んだ魚介類のことです。旬を明確にし、地元で水揚げされたものを対象に、天然・養殖を問わず選定されています。
Contents
魚×発酵食は、最強のタッグ!
―森さんの活動内容を教えてください。
「魚好きを増やしたい」という想いから、2020年にYouTubeチャンネルを開設しました。一般の方がなかなか目にする機会のない魚の仕入れ、さばき、調理の現場を、楽しく分かりやすく発信しています。
仲買人さんや市場の職人さんから聞いたエピソード、食べ方の提案など、魚にまつわるストーリーを大切にしており、発信を始めてから全国からお魚好きの方がお店に来てくださるようになりました。
2024年には、魚の特徴や食べ方を紹介する本も出版しました。
発酵食においては、愛知「発酵食文化」振興協議会のメンバーとして活動し、2025年11月17日に開催されるセミナーには、パネリストとして登壇します。また、魚に合うしょうゆを日々研究しており、現在、愛知の醸造蔵とともに、マグロに合う究極のしょうゆを開発中です。
―魚のプロから見た、魚と発酵食の相性は?
愛知は、たまりしょうゆ、八丁味噌、白しょうゆ、三河みりんなど、日本を代表する発酵調味料の宝庫です。
魚と発酵食を組み合わせることで、味わいと可能性がグンと広がります。
例えば、魚の赤身にはうまみ成分の「イノシン酸」が豊富です。これに、たまりしょうゆや味噌に含まれる「グルタミン酸」が加わることで、うまみの掛け算が起こります。マグロの赤身をたまりしょうゆに軽く漬けると、味がグッと深まるのはそのためです。
さらに、魚の脂を発酵調味料の酸味や香りが中和し、後味がすっきりする効果も。これは科学的にも理にかなっていて、魚と発酵食の相性は、まさにベストマッチと言えるのではないでしょうか。
―開発中のしょうゆについて教えてください。
寿商店が運営する「魚屋の台所 下の一色 本店 ※」(名古屋市)では、マグロの解体ショーが恒例イベントとなっており、以前からマグロに合うしょうゆを研究していました。
「自分たちで目利きした最高のマグロと、マグロに合う最高のしょうゆを組み合わせたら、お客様に最高の体験をしてもらえるのではないか」という思いが、開発のきっかけです。
うまみの強いマグロには、やはり愛知のたまりしょうゆが最強の組み合わせ。
半田市のしょうゆ蔵「ヤマミ醸造」さんにご協力いただき、今年の冬に仕込みを行う予定です。
実はそういう私自身、今回しょうゆの開発を手掛けるまで、たまりしょうゆが豆味噌を作る工程でできるということを知りませんでした。愛知の発酵食は、愛知の歴史と気候風土が育んだ他にはない食文化。
魚と発酵食の相乗効果で生まれるおいしさとともに、次世代に伝えていきたいと考えています。
※リニューアル改装中により臨時休業中。2026年リニューアルオープン予定
家庭でできるプロの味!
愛知のプライドフィッシュ×愛知の発酵調味料で作る
「うなぎの蒲焼き」
―愛知のうなぎ文化について、焼き方やタレの特徴は?
うなぎは、愛知が誇るプライドフィッシュ※のひとつ。
その代表的な調理法である蒲焼きには、大きく分けて「蒸し焼き」と「地焼き」があります。
江戸のうなぎは「蒸し焼き」が基本。
江戸前では脂の多いうなぎを一度蒸すことで余分な脂を落とし、あっさりとした味わいに仕上げます。
それに合うよう、タレはしょうゆと砂糖を主体とした、比較的すっきりした甘辛味が好まれました。
一方、名古屋を中心とした中京圏では、「地焼き」文化が根づいています。蒸さずに直火で焼き上げるため、皮目のカリッとした香ばしさや、ジュワッとした脂のうまみが前面に出るのです。
その力強さを支えるのが、タレの存在。
アミノ酸が豊富なたまりしょうゆや、コクと照りをもたらす三河みりんを用いた、濃厚なタレが発達しました。
愛知は古くから大豆や米を原料にした醸造文化が盛んで、たまりしょうゆやみりんは地元の特産品。
つまり、調味料の地域性と調理法が見事に結びつき、「香ばしい地焼き×濃厚なたまりダレ」という、唯一無二のうなぎ文化が形成されたと考えられます。
―うなぎのタレに使う発酵調味料の選び方は?
しょうゆの選び方で、タレの味わいは大きく左右されます。愛知の特産品であるたまりしょうゆは、アミノ酸が豊富で、強いうまみが特徴。色が濃く、大豆のうまみがしっかりと感じられ、なめたときにキレのあるものがおすすめです。そのたまりしょうゆに合わせるのは、同じく愛知が誇る三河みりんを。
自然由来の上品な甘さが加わることで、タレが丸みを帯び、味わいに奥行きが生まれます。
また、本物の原料と昔ながらの伝統製法で作られた、たまりしょうゆや三河みりん、清酒(日本酒)には、余分なものが入っていません。素材を引き立てつつ、自分好みに味わいが調整できるのも大きな魅力です。
森さん特製! 「うなぎの蒲焼きタレ」レシピ
たまりしょうゆのうまみと、三河みりんの自然な甘みを生かした、森さんの特製レシピをご紹介します。余分な甘みが含まれていない三河みりんだからこそ、砂糖の分量に応じて「大人のキレ味」から「ご飯がすすむ甘めの味」まで、自分好みに調整できます。
■タレの材料(約250ml分)
愛知県産たまりしょうゆ… 200ml
三河みりん…150ml
日本酒…50ml
砂糖…大さじ3(お好みで大さじ2〜4まで調整可)
■タレの作り方
①鍋にすべての材料を入れて、さっと混ぜる。このとき、砂糖は自然に溶かすイメージで、混ぜすぎないように。
②中火にかけ、鍋のふちに細かい泡が出てくるまで加熱し、アルコール分を飛ばす。アルコール臭が抜け、香りが甘く立ち上がってきたらOK。
③弱火にして10〜15分、ふつふつと小さな泡が立つ状態を保ちながら煮詰める。焦げやすいので、時々木べらで混ぜる。
④木べらの背にタレを少量すくい、とろみを確認する。線を引くとゆっくり跡が消えるくらいが目安。冷めると粘度が増すので、ややサラッとした状態で火を止める。
⑤粗熱が取って清潔な保存瓶に移す。冷蔵庫で約2週間保存可能。
✅森さんのワンポイントアドバイス
タレ作りのポイントは、みりんと日本酒のアルコール分をしっかり飛ばして、調味料本来のポテンシャルを引き出すこと。そして、煮詰める際は焦らず弱火でじっくり仕上げることで、香ばしさや照りが生まれます。シンプルな材料でも、驚くほど味わい深くなり、お店の味に近づきますよ!
特製タレを使って、うなぎの蒲焼きを作ろう!
家庭で手軽に蒲焼きを作るなら、市販の白焼きや蒲焼きを活用しましょう。
蒲焼の場合は、タレを一度洗い流し、自家製のタレを塗り直すのが“森さん流”!
■材料
・市販の白焼き、または、うなぎの蒲焼き
・蒲焼タレ
■作り方
①白焼きの場合はお酒を振り、電子レンジで温める。蒲焼きの場合はタレを洗い流し、水気を拭いてお酒を振り、電子レンジで温める。
②身がふっくらしたら、刷毛を使ってタレを塗る。
④さらにオーブントースターなどで焼くと、香ばしく仕上がる。
✅森さんのワンポイントアドバイス
調理済みの蒲焼きは、タレにうなぎの脂が混ざり、酸化してしまっていることも多いため、思い切ってタレを流してしまいましょう。身がふっくら温まったところに再度タレを塗ることで、味がよく染み込みます。
うなぎの調理法は、森さんのYouTubeでも公開中!
蒲焼きタレの、うなぎ以外の活用法を教えてください。
タレを一度に使い切れなかった場合は、保存瓶に移し替えて冷蔵庫で保存しましょう。使うたびに軽く火を入れると香りが立ち、風味が長持ちします。うなぎ以外にも、太刀魚などの白身魚やブリの蒲焼きに。煮魚の調味料として。しょうゆに混ぜてお刺身につけて……と、様々な魚や料理に使える万能タレです。
タレを塗る際は、魚の身を傷つけないよう、やわらかめの刷毛がおすすめです。
繰り返し使うことで、刷毛に魚の脂とうまみが染み込み、タレがどんどん味わい深く育っていくのも魅力。
お店の継ぎ足しタレのように、皆さんもぜひ、自分だけのタレを育ててみませんか?
魚と発酵食を掛け合わせれば、毎日の食卓がもっと豊かに!
―家庭での楽しみ方について、メッセージをお願いします
魚と発酵食は「健康」「おいしさ」「文化」を同時に届けてくれる、素晴らしい組み合わせ!
今回ご紹介したうなぎの蒲焼きをはじめ、私たちプロが目利きした魚と、愛知の誇る発酵調味料を使えば、ご家庭の一皿がぐっと豊かになります。ぜひ日々の食卓に取り入れて、愛知の食文化をもっと楽しんでみてください。
森 朝奈(もり あさな)さん プロフィール
株式会社寿商店 常務取締役。名古屋市出身。
鮮魚の販売に加え、居酒屋をはじめとする魚食にこだわった飲食店を展開し、「魚食文化を全国に広める」ことを目標に活動。
YouTubeチャンネル「魚屋の森さん」を開設し、魚のさばき方や調理法を発信。2021年にはGoogle社主催の「Humans of YouTube」に選出されるなど、国内屈指の魚食系クリエイターとして活躍。水産庁など公的機関との連携実績も多数。著書に『共感ベース思考』『魚をあじわう』がある。






